NOUVELLE CRITIQUE

―― 新批評誌 ――

 

 

             Aesthetica OLIVIA 編集部

             aesthe-olivi@live.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

20088

執筆者 M.I.

 

‘08年プロ野球ペナントレースの行方

 

(1)   パ・リーグ概略

 

4月に、私は、ロッテ、日本ハムの順で日本シリーズ進出チームの予想をした。それは今も変わらないが、4月以来、ずっと首位を独走している西武の意外な強さには驚かされる。 そこで3位争い、すなわちプレーオフ進出争いは、西武とオリックスになるだろうと思う。脱落チームはソフトバンクと楽天ということになる。

 

A4位になると私が予想するオリックスについて

解説者たちが強い強いと称えるオリックスについては、私はそれほど評価できない。このオリックスというチームは、経営体質の中に、大きな欠陥があるように思える。関西方面での人気を、殆ど阪神に奪われているオリックスとしては、ファン獲得は企業の責務だろう。しかし、プロ野球企業が大きな成功を獲得するためには、強くなることが必須条件である。この強さを土台に、チームとしてのドラマチックな要素、あるいは、選手達の技術向上が不可欠となる。オリックスのマネージメント体制は、それを忘れて、芸能社会のように「人寄せパンダ」に頼ろうとした。この発想はいかにも平凡で、しかも低俗である。つまり、スポーツ企業には当てはまらない考え方である。

              かなりの期間にわたって続くオリックスの勢いというものに、私は選手達の憤懣の大きさを感じた。「人寄せパンダ」すなわち清原選手は、すでに何年も前に、身体機能を摩滅し、今ではどこのチームから見ても、不要な存在に過ぎなかった。関西で、阪神に圧倒的な人気を奪われているオリックスとしての、この特殊事情が、「人寄せパンダ」を飼う営業政策に走らせた。

次のような実例がある。入団2年目の松井秀樹の多額の給与に不満を抱いた大久保捕手(当時、巨人に在籍)がTV出演に際して、「何年も巨人のために働いてきた自分に比べて、わずか1年しか働いていない松井の多額の報酬は不公平だ」と怒っていた。いま現在、メジャー・リーグという高いレベルでの世界で、結局は一流選手になれない松井だが、しかし、日本では当然、一流選手だったし、また巨人ではずば抜けた存在だった。さらに、やがて日本を代表する選手になることは誰の眼にも明らかだった。それでも、一部の選手達には、彼に対する優遇はいかにも不公平に思えたものである。

              ところが、この「人寄せパンダ」は殆ど役に立たない。本来、「人寄せパンダ」などを必要としないスポーツ企業で、必ずしも高給取りではないオリックス選手達の必死の働きで、企業収益をあげているのに、その収益の中から莫大な金額が、パンダの餌代として出ていってしまう。オリックス経営陣は、この馬鹿げた政策をいつになったらやめるのか。選手達が闘志を失っていくのは当然である。

              そして、清原引退が内定した時期、オリックス選手達は明るさを取り戻してきた。そのムードは、このチームの勝ち星を増やしていった。やがて清原引退の正式発表とともに、オリックス選手達の力が見事に結集され、人々を驚かすまでの勢いとなった。             

              しかし、勢いは必ず、止まるものだ。オリックスの勢いはプレーオフの前に止まるに違いない。

 

 

B)ソフトバンクは、かろうじて5位を守れるか?

              解説者達のソフトバンクに対する評価の高さに、私はいつも驚かされてきた。現在、2位を死守するために全力を挙げているかもしれないが、このチームの年ごとの戦力低下はあまりにも明白であった。この戦力低下は、かつて王監督が小久保を巨人に譲渡したときの思い上がりに始まっている。この疑問を選手達は口にはしなかったが、例えば、城島、井口の渡米、村松の移籍などに感じ取ることができる。松中は3冠王を取ったりしたものの、年々衰えていく自分と並行して、劣化していくチームを無意識のうちに感じていたのかもしれない、彼の悲痛な叫びが毎年のようにくり返されている。

「なんとしても王監督を日本一にしなければならない。こうした思いの最も強いのがソフトバンクだ。だから必ず優勝してみせる」

この「気持ちの強さ」論には、ある問題点が含まれる。通常、インタビューの質問に言葉の詰まった選手、あるいは、その言い方がファンを喜ばせることを知っている選手が使う用語である・・・・「気持ちで打ちました」、「気持ちだけで投げぬきました」等々。だが、この言葉には、2つの問題点がある。1つは、強い気持ちによって物事は全て良い方に向かう、として技術や体力の向上に怠慢になる。もう1つは、このソフトバンクの松中に見られるような、衰える自己に鞭打つあがきである。恐らく、このチームに新風を吹き込む何かがなければ、過去の強さを取り戻すことはできないだろう。

 

 

C)楽天は最下位を脱出できるか?

              最近の楽天の凋落ぶりは、解説者泣かせと言えるかもしれない。かつてない「勢い」をしばしば感じさせてきたが、その勢いを止めてしまうのは、いつも野村監督自身であることを本人は知らないのだろう。例えば、連勝を続けているチームといえども、いつかは止まる。そして時には大敗もする。しかし、強いチームは必ず盛り返す。だが楽天の場合、盛り返す力を示すよりも、逆に、この監督によって、その力を消失させられてしまうのだ。ヤクルトを常時優勝候補に挙がるほどのチームにしたのは、確かに野村監督の手腕かもしれない。だが、常勝ヤクルトに最初の幸運をもたらしたのは、1992年の阪神タイガースである。 野村監督自身、「阪神は強い、強すぎる」とぼやいていたが、それほどの猛追を見せたわけでもないヤクルトに優勝をさらわれたのは、阪神・中村監督の拙い選手起用である。いったんその流れを、自己の掌中に取り込んだ野村監督は、そこから常勝ヤクルトを作っていった。一方、阪神は次の年から最下位をのたうつシーズンをくり返すことになる。

              だが、ともかくも、もたらされた幸運を確実に自分のものとし、短いとはいいながら、ヤクルト黄金時代を築いた実績は認められなければなるまい。しかし、データを重視するという、ある意味ではごく平凡で、またオーソドックスな戦法にID野球という特殊な命名をしたりしたことが、当時の古田を中心とした「東京音頭グループ」を奮い立たせていたことも事実だろう。こういうことも、監督の優れた手腕の一つに違いないが、栄光はそこまでである。そのあと、阪神を4年間続けて最下位とし、ただの一度も5位にすら位置させることができなかった、プロ野球史上唯一の監督となるのである。野村監督が阪神を去ってからの2002年以降、阪神は56位に低迷したことは一度もない。

              そこで、人々が面白がる「野村ぼやき節」を二つばかり取り出してみよう。 

              「このチーム(阪神)は私の野球をさせてくれないのですよ」(阪神監督時代)
              「今岡(2003年首位打者)の働きは、私を傷つけますよ」(楽天監督時代)

まるで幼児の泣き言である。
      「私の野球をさせてくれないチーム(阪神)」という言い方で、野村監督は阪神選手達への指導が殆ど無に帰していることをぼやいていた。その代表的存在が今岡であった。しかし、当時の今岡は、若手のホープであり、やがてスターになる素質を持っていた。そしてスターになった今岡の存在は、この容量の小さい野村監督を傷つけたようだ。


              そして楽天選手に対するぼやきは、これとは違った、選手に対する侮蔑に満ちた言葉の羅列である。たとえば、昨年の有銘投手。監督は「あんなピッチングじゃ、プロで通用するわけないんだよ」しかし、シーズンを通してリリーフ投手として欠かせない存在であったことはまちがいない。次にフェルナンデス選手。「あんなのは所詮マイナーだな。」だがこの選手の打棒が楽天を勝利に導いたことは数多い。今年になっても、たとえば、すでに3本柱の一つとなりつつあった永井投手に対して、たまたま勝ちを落としたゲームで、「あれが永井の実力だよ。仕方ないね」等々。ときとして、主戦格の岩隈に対しても、そのぼやきは向けられる。また、たとえば、交流戦で阪神の真弓監督と握手したとき、「お互い弱いチームを持った監督は苦労しますな」と相手チームの監督にも、自チームへのぼやきを平気で投げつける。

選手を叱るもよい、場合によっては怒鳴りつけるもよい。しかし、侮蔑に満ちた嘲りの談話を報道陣にまき散らすのは、チームを率いる指揮官としての資格を失わせると言っても過言ではない。

 

(2)   セ・リーグ概略

 

(A)    広島カープ

 

ブラウン監督の指導の成果は昨年あたりから現われた。ストッパー永川の不安定が常にウィークポイントとなり、勝ちゲームを最終段階で、失うこともしばしばだった。数年以上下位チームとしての地力のなさも露呈していた。しかし、ブラウン監督3年目に、ついにその指導がようやく結実した感がある。例えば、現在の永川。藤川や岩瀬を上回る安定性を発揮している。大事なことはその持続である。

TV観戦は、実際に私達に見える具体的な映像と、目に見えても、耳には聞こえてこない状況への想像を頭の中に形作る。このとき、聞こえない音声を私達は自然に描き出す。

その一つの例は’06年の阪神戦。 ブラウン監督就任1年目の年である。 大竹投手は、今までがそうであったように、ときどきではあるが、素晴らしいピッチングを示し、元来、彼が備えている素質の良さを、この新任監督にも見せている。しかし、この阪神戦で、大竹は幾度となく、アンパイアの判定に悩まされていた。それでもまだ失点はなかった。やがて、何回目かのアンパイアの「ボール判定」に、大竹の集中力は途切れそうになった。

・・・・ブラウン監督がベンチを飛び出す。口元を引き締めた
印象的な表情。しかし向かう先は、ホームベースではなかった。
ピッチャーズマウンドに達すると、監督は投手に語りかけた。
「キミの今日の出来は素晴らしい。ボールの判定はアンパイア
のまちがいだ。だから、キミはそのまま自信を持って投げ続け
なさい。決して怯んではいけない。私は今から退場になるが、
ここで言ったことを頭から離さず投げてくれ」

    監督は、ホームベースに歩み寄り、アンパイアに抗議
した。そして退場。大竹は最後まで見事なピッチングを示し、
広島は阪神に勝った。

 

この大竹投手が、やがてエースの一人として先発陣の支えになるだろうことをブラウン監督は確信している。だが、彼についての一般的な批評として、精神的な脆さが挙げられてきた。それを打ち破るのも、まもないだろう。それを実感させる映像であった。

 

 

(B)    阪神タイガース

 

このチームは、ここ数年、「安定した優勝候補という地位」を、常に中日に奪われてきた。それは全て、岡田監督の偏った用兵の結果だと言えよう。今年も、相変わらずの監督の頑迷さがオープニングと同時に現われている。昨年の場合、今岡・シーツという1割バッターをいつまでもクリーンアップにおき、また2割そこそこの赤星を常時1番に置いた。そのため、わずかな日数ではあるが、最下位転落もあったほどだ。オールスター後の快進撃は、林・桜井等の活用から始まっている。ところが今年の場合、今岡・フォードという1割バッターを、5番6番に据えても、他の選手達が見事に補っていた。

ところで、このチームの首脳陣の用兵の悪さは、野手についてばかりではない。JFKの酷使について、監督はしばしば打撃陣の頑張りを期待する発言をしていた。しかし、4点差でも5点差でも、相も変わらずJFKの酷使が続く。まず久保田が力尽きる。それに対して、監督と投手コーチは「久保田の精神的な弱さが問題だ」と厳しく評した。次に藤川が、ここ2年間続いたストレートの威力を失っていく。打ち込まれて同点とされ、その後の攻撃で勝ち投手となった藤川の、少しも喜べない悲痛な表情が、しばしばTVの画面を横切った。

ここで昨年(2007年)の、阪神だけに特有な投手陣の異常現象を思い出す。投手成績欄に、阪神だけが一人の名前も出すことができないのである。それほど先発陣が弱いなら、江草、渡辺の2人を、あるいはその1人でもいい、なぜ先発として使おうとしないのか? 弱体先発陣に対して、数量を誇るリリーフ陣。しかし、JFKの酷使は依然として続いた。それについての阪神首脳陣は次のようなことを言った。「これが阪神の野球だ」。開幕時の打撃陣達(今岡・フォードを除く)の渾身の活躍の結果、現在、首位を保っているが、戦力はかなり衰退している現状である。スタート時に、あれほどの強打を誇った打撃陣も、バイオリズムと人が呼ぶ、ある必然性のもとに、打率を下げていった。オープン戦から開幕後も絶好調を見せていた葛城を使おうとしない。あるとき、マルチヒットを打った葛城を、次の日、ベンチに残す。しばらく休ませた後、再び葛城を使う。そこで彼はまた、成績を上げる。そしてまた、数日の休みを取らせる。そのうち、葛城の調子も低下していった。 ・・・・まるで、1割バッター達を使いたいために、葛城の調子が落ちることを願っているかのような用兵である。

阪神はこのまま優勝するかもしれない。しかし、大差を付けた2位以下のチームに優勝をさらわれたとしても、驚くべきことではない。なぜなら、阪神タイガースはすでに、相撲で言うところの「死に体」となっているからである。

さらに、来シーズンについて言えば、状況を見通すことのできるファンは、避けられない不安におののくだろう。私は、100%近い確信を持って、来季の阪神をBクラスと予想する。これを免れるためには、すなわちAクラスに留まるためには、岡田監督・久保ピッチングコーチ・広沢バッティングコーチ、この3人の退任が必要となるだろう。

 

(C)    中日ドラゴンズ

 

昨年までの「安定した優勝候補という地位」に、今年は暗雲がかかっている。先発陣に全体としてのかげりが見え、抑えの岩瀬がついに衰えを見せ始めてきた。しかし、その岩瀬も、そのまま駄目になってしまうということはないだろう。同時に先発陣もやがて整備されるだろう。だが、今年見え始めた戦力低下は現実の問題である。とはいえ、このチームは、パ・リーグのロッテと似ていて、低下した戦力をかなり早い期間に立て直す力を保持している。それは、基本的には、チームの層の厚さに由来するからであろう。

後記するが、原監督のチーム作りによって力を蓄えてきた巨人に、優勝する力があるとは必ずしも言えない。だが先記したように、首位にいる阪神に優勝するだけの実際の中身がないならば、リカバリー次第では、中日が日本シリーズに出場する可能性は無きにしもあらずである。

 

(D)   巨人ジャイアンツ

 

約1〜2年前、TV解説に出演した星野仙一氏が次のように語ったことがある。「今の巨人が、中日や阪神と互角に争えるようになるためには、まだまだ時間がかかるであろう。なぜかと言えば、優勝争いするだけのチーム造りをしていなかったから」。 ここで、堀内監督のことが思い出される。彼は、巨人が引きずってきた長島巨人的肥満体を解消しようと情熱を傾けた。「やれ清原だ、やれペタジーニだ。巨人の優勝は間違いない」とオーナーがうそぶいた時期は、すでに去っている。「大艦巨砲主義」の巨砲が力を発揮したとしても、打率に対してはるかに低い本塁打率で、長いペナントレースを勝ち取ることは全く不可能である。まして、この巨砲達が、殆ど勝利に貢献できないとするならば、それはただの肥満体に過ぎない。これを改革しようとした堀内監督は、心ない巨人ファンや野球マスコミ達の非難を浴びることになる。始めのうち、「私は正しいことをしている」と語っていた堀内監督も、いつか口をつぐむようになり、結果として、1年で監督を辞任した。


     (註)「大艦巨砲主義」と「空中戦」

              
「大艦巨砲主義」とは、第二次大戦中、日本海軍が世界に誇った戦略の一つ
      である。真珠湾の奇襲を受けて、戦艦、巡洋艦などを失ったアメリカは
、     残された空母を移動基地とする航空作戦に、戦略を集中させていった。
      ごく初めのうち、スピードを誇る日本海軍のゼロ戦はアメリカ戦闘機を圧
      倒していたが、わずか半年後、
1年後には、はるかに優れた各種の戦闘機
、     例えば、ライトニング、コルセア、サンダーボルト等がアメリカで生産
      され、数ヶ月続いた空中戦(空での白兵戦)で、アメリカは太平洋におけ
      る制空権を確立してしまった。昨今、「一発」あるいは「大砲」と喩えら
      れたホームランを、アナウンサー達や解説者達は、「空中戦」と喩えてい
      る。空での白兵戦である「空中戦」のイメージから、あまりにもかけ離
      れた「一発戦」である。これを「空中戦」と言い出したのは、アナウンサ
      ーが先なのか、解説者が先なのかは不明だが、野球放送あるいは解説で
      定着しつつある。

         今や野球は、日本の文化の一つとなりつつあるのだから、このホームラ
      ンの打ち合いを、およそイメージにそぐわない「空中戦」と喩える、言葉
      の過ちは、一日も早く直して欲しいものだ。

 

しかし、着任した原監督は、逆に、堀内監督が阻まれたこの改革に着手し、その成果を挙げてきた。しかし、今年までの巨人を見る限り、この改革は半ばであり、「安定した優勝候補の地位」を築くまでには至っていない。ただ、現在Aクラスを保持している他の2チーム(阪神と中日)もまた、すでに記したように、安定した戦力を持っていない。そこに私は、広島がクライマックスに出場すれば、このシリーズに勝ち残る、日本シリーズに出場するチャンスがあるだろうと想定した。

このペナントレースの予想はともかくとして、来季以降の巨人を見る場合、この原監督のチーム造りに、ファン達はかなりの希望を持てるのではなかろうか。当然、改革の中には大きな手術も伴う。手術の前に別の整合もまた必要だろう。つまり、ラミレス・小笠原の強力な外来者が、木村拓・谷などを合わせて、新しいカラーを作り上げる・・・・・・。一方、長年にわたって、野球マスコミから甘やかされ続けてきた巨人選手達、その最後の世代である上原・二岡・高橋由の3人が何らかの形で巨人を去る、そして巨人生え抜き選手達としては、阿部捕手を中心に、「甘やかされ時代」と縁のない若い選手達が、またチームカラーを創り、外来者達と融合する。これが成し遂げられたとき、巨人は初めて、「安定した優勝候補の地位」を獲得するであろう。

 

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